2015年09月08日

国境の駅で

 
深夜1時過ぎにクアラルンプール中央駅を出発したマレー鉄道は、古い車体を軋ませながら、タイとの国境を目指して懸命に走りつづけます。私たちが予約したのは二等寝台車で、金曜の夜だったせいか、下の段よりも天井が低い上の段しか空きがありませんでした。クアラルンプール市内に勤めている人たちが週末を利用して一斉に短期帰省するようです。1両に40ある寝台は、すべて埋まっていました。


狭い空間ですが、収まってみると意外に快適です。難点は、ルーム灯が壊れていて機能しなかったこと。カーテンを閉めると真っ暗になり、仕方なく横になったら、そのまま眠りに落ちて朝まで目が覚めませんでした。

回ってきた車掌に「パスポートを持ってホームに降りてください」と声をかけられたのは、午前10時過ぎでした。列車は国境手前のパダンブサールという駅に到着。駅舎がイミグレーションになっていて、ここでマレーシアからの出国とタイへの入国手続きを同時に行います。私はちゃんと靴を履いて降りましたが、写真家の倉谷氏は成田からの機内で支給されたスリッパで、また今回の旅のもう一人の同行者であるANA広報部のS氏はパジャマ代わりの短パンに素足で革製ビジネスシューズという変な出立ちでした。二人とも、慌てて出てきたのでしょう。

入国手続きはすぐに済んだものの、なぜか列車がホームからいなくなり、その駅で1時間半も足止めされました。理由も知らされず、ベンチに座ってただ待つしかありません。前を通りかかる人たちはみんな、倉谷氏のスリッパと、S氏の短パンに素足で革靴という足もとをチラ見して行きます。私は、二人から50センチくらいスペースを空け、知らない人の振りをして出発を待ちました。

S.Akimoto at 00:02│アジア・太平洋の旅 
Profile

秋本俊二(Shunji Akimoto)

作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各媒体にレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『空を飛べるのはなぜか』『これだけは知りたい旅客機の疑問100』(サイエンスアイ新書)『羽田空港のひみつ』(PHP新書)『ANAとJAL──こんな違いがあったのか』『飛行機はなぜ、空中衝突しないのか?』(KAWADE 夢文庫)など著書多数。

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