2015年06月04日

恋人たちの南京錠

 
何年か前に、どこかで「ラブ・ロック」というタイトルの短いエッセイを書きました。米国カリフォルニア州のナパバレーを訪ね、世界中のワイン好きが憧れる“ワイントレイン”に乗るためにホームへ向かう橋の途中でのことです──。


 いろんな国の、いろんな形をした南京錠が金網にぶら下がっている。どの錠前にも、二つのイニシャルが刻まれて。ワイントレインに乗ろうと、ホームに向かう橋の途中で見つけた。
 “ラブ・ロック”と呼ばれ、中国で発祥して欧米へと広がったらしい。英語の表示板にはこう書かれている──「施錠したあとはキーをこの先の湿地帯に投げ込むべし」。北欧から来たという若いカップルが、自分たちのイニシャルを入れた可愛い南京錠を金網の空いたスペースにかけ、お互いの目を見つめてキーを回す。
 そのキーを二人して遠くに投げ捨てた瞬間、彼らの愛の心は永遠にロックされた。


ロマンチックですが、こういうこともやり過ぎてしまうとマズイようです。パリのセーヌ川にかかるポンデザール橋で今週、同じように各国からの恋人たちが残していった南京錠の撤去作業が始まりました。市側は「安全のため」と説明していますが、手すりにつけられた南京錠は100万個近くにまで増え、放っておくと重さに耐えられず欄干が崩れ落ちる危険があるのだとか。総重量は50トン以上にもなるといいます。

ルーブル美術館と左岸を結ぶこのポンデザール橋では、2014年の夏にも錠の重みで欄干の一部が崩落し、問題になりました。川に投げ捨てられる鍵も、数が増えると水質を汚してしまうので、禁止になるのも仕方ないのかも知れません。ニュースの画面には、作業をぼう然と見つめる若いカップルが映し出されていました。思い出が消えてしまう淋しい気持ちも、わからないではないですが。

S.Akimoto at 19:39│オフタイム 
Profile

秋本俊二(Shunji Akimoto)

作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『これだけは知りたい旅客機の疑問100』『ボーイング787まるごと解説』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)や『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)など著書多数。

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