2015年05月29日

俳優・今井雅之さん

 
あれは、いまから20年前──1995年の夏でした。東京・赤坂の小劇場「シアターVアカサカ」(2008年6月に閉館)の楽屋を本番開始の2時間前に訪ねると、今井雅之さんが「僕なんかを取り上げてくれて本当にありがとうございます。感激しています」と私に手を差し伸べました。人懐こい笑顔で、しかし目だけは野生動物のようにギラギラしていたのを思い出します。


その日は、今井さんが原作と脚本、主演を務めた異色の舞台『THE WINDS OF GOD』の上演初日。会場では慌ただしく準備が進むなか、私のインタビューに真摯に答えてくれました。当時私はある経済誌に『境界線からの視点』という著名人への連載インタビューのページを持っていて、注目している舞台が始まるからと編集部に提案し、今井さんに取材を申し込んだのです。今井さんは二つ返事で引き受けてくれました。

「いまは何をやっても食べていける時代です。だから役者の世界でも、せっかく役をもらっているのに、バイトがあるからと平気で稽古を休んでしまう。考えられません」と話していた今井さん。「風呂付きアパートの家賃を払わないといけないからバイトに行くというのもわかるけど、だから役者としてのチャンスを逃してしまっていいのか。だったら役者になりたいなんて考えなければいいし、役者を目指す気があるなら、家賃を払えないそのアパートを出ればいいじゃないですか」

その熱い語り口が、いまも耳に残っています。本当に“熱い”人でした。インタビュー後に「初日の舞台、最後まで観ていってくださいね」と私を中央の席に案内し、そして「秋本さんも舞台をお書きになると聞いています。いつかいっしょにやりたいですね」ともう一度手を差し伸べた彼。『THE THE WINDS OF GOD』は20年経ったいまも上演が続き、作品の生みの親である今井さんはこの世を去りました。54歳という若さで。残念でなりません。ご冥福をお祈りします。

S.Akimoto at 15:07│オフタイム 
Profile

秋本俊二(Shunji Akimoto)

作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各媒体にレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『空を飛べるのはなぜか』『これだけは知りたい旅客機の疑問100』(サイエンスアイ新書)『羽田空港のひみつ』(PHP新書)『ANAとJAL──こんな違いがあったのか』『飛行機はなぜ、空中衝突しないのか?』(KAWADE 夢文庫)など著書多数。

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