2015年03月27日

エセ評論家の偏見

 
自分の文章で個人的な「怒り」をぶつけるようなことは私はしないのですが、今日は少し感情をあらわにします。それも、かなり長めの文章で。連日メディアで報じられている独ジャーマンウイングスの事故に関して、ここできちんと言っておかなければ、現場で一生けんめい頑張っているLCCの社員たちが報われないと思いました。しばらく、おつきあいください。


墜落事故の一報が入ってきたその日(3月24日)の深夜、私はさっそく某テレビ局の電話取材を受け、状況から推察して「単なる機体故障による事故とは考えにくい。ハイジャック犯やテロリストにコクピットが占拠された可能性も考えなくてはいけないのでは?」とコメントしました。まだほとんど何もわかっていない状況下での、あくまで「可能性」としての発言です。

私のコメントが翌朝の情報番組でそのままオンエアされると、それを受けたある評論家は「いやあ、テロの可能性はないでしょう」と切り捨てました。他局の番組でも別の評論家が「テロとは考えられない」と断じます。見解が異なることを私が問題にしているのではありません。ですが、まだ情報が何も入ってきていない状況で「テロではない」と結論づける彼らが、事故原因についてどう言及したか? 信じられないことですが、まるで「これこそが真実」というように、彼らは「LCCだから」と口を揃えたのです。ジャーマンウイングスはLCCなのでろくな整備も行っていないはず、LCCのパイロットはちゃんとした訓練を受けていない──などと、まったく根拠のないことを持ち出して。

古い体質の評論家ほど、LCCに対する偏見があるようです。私はいつも言うのですが、運航の安全基準に大手もLCCもありません。パイロットも大手とは勤務形態が変わるだけで、課せられる訓練も必要とされる経験も同等です。LCCだから信用できないなどということは、絶対にない。なのに、したり顔で「LCCは整備に手を抜く」とか「LCCのパイロットは能力が低い」と評論する彼らは、おそらくLCCには一度も乗っていないのでしょう。現場をまったく知らないのです。冬の寒いときはコタツに入って、夏の暑いときにはクーラーの効いた部屋で、古い時代の自分たちの貧弱な経験だけを頼りに彼らは「LCCはけしからん」と結論をくだす。LCC各社にとっては、はた迷惑な営業妨害です。かつてはある程度の収入がある人しかできなかった旅客機での移動を、LCCは一般の人たちにも開放しました。空の旅をもっともっと気軽に、安心して楽しんでほしい。そんな願いを実現するために、LCCの現場の人たちがどれだけ頑張っているかを、彼らは自分の目で見ようともしません。だから今回のジャーマンウイングスの事故も、何ら根拠もないのに「LCCはやっぱり整備を適当に済ませていた」とか「LCCのパイロットの経験不足が招いた事故だろう」などと決めつけるのです。考えてもみてください──自分たちが儲けるために人の命をないがしろにするような会社で、誰が働きたいと思いますか!

所定の整備をきちんとやっていなかった事実が発覚した航空会社が監督官庁である国交省から厳しい指導を受ける──そんなニュースをたまにテレビや新聞で目にします。しかし、これもLCCに限ったことではありません。大手だって同じです。整備に手を抜く会社は姿勢を正してもわらなければなりませんが、これも「LCCだから」ということではないのです。

機体の定期整備を「外注化」していることを攻撃する評論家もいました。ですが、重整備の外注は、いまは大手でもやっていることです。効率化やコスト削減という背景もありますが、専門の会社に委託することでより高い安全を確保できるという考え方が主流になりつつあるのも事実。ジャーマンウイングスの親会社であるルフトハンザは、グループにルフトハンザテクニックという整備専門の会社を組織し、長年にわたって技術を蓄積してきました。そこでは、自社の機体の整備だけでなく、世界中のエアラインから1,000機を超える航空機の整備委託を受けるほど信頼されている技術部隊が活躍しています。評論家を名乗るなら、そういう現場にも自分の足を一度くらい運んでみれば、現状を把握できるはず。残念ながら、よくテレビであれこれ言っている評論家は、忙しくてそんな時間もないのかも知れませんが。

いいえ、私が非難しているのは、すべての評論家ではありません。尊敬する先輩たちも大勢います。今回の事故に関してテレビ出演されていた中では、元JALの機長であり、操縦桿を握って地球を800周した実績をもつ小林宏之さんの解説に感銘を受けました。限られた情報しかないなかで、自分はどう思うか、どんな可能性が考えられるかなどを理路整然と解説する論評は聞いていて「なるほど」と思うことばかり。現状ではわからない点については「それはまだ何とも言えない」と発言する勇気も持ち合わせていて、さすがです。

ジャーマンウイングスの事故機のボイスレコーダーが回収され、仏検察当局は「ドイツ人の副操縦士が意図的に墜落させた」という見解を発表しました。某評論家が言ったような「LCCだから整備に手を抜いていた」わけでも、別の評論家が言った「LCCのパイロットだから経験不足」だったわけでもありません。そういう論調で語っていた評論家たちは、自分たちが展開した“いわれなきLCC攻撃”をどう釈明するのでしょうか。故意に墜落させたという副操縦士の名前がテロリストの名簿にはなかったことも伝えられています。なので、私が言った「テロの可能性も考えなくてはいけないのでは?」といった意見も的外れだったのでしょうか。しかし、仏検察当局が語ったように「自殺は一人でするもの。多くの人を道連れにする行為は自殺とは呼ばない」というのも当然のこと。罪のない150人もの命を一瞬にして奪う行為は、私に言わせると“テロ”以外の何ものでもありません。

S.Akimoto at 04:10│マイ・オピニオン 
Profile

秋本俊二(Shunji Akimoto)

作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『これだけは知りたい旅客機の疑問100』『ボーイング787まるごと解説』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)や『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)など著書多数。

Logo_MakotoStyle_Tittle.jpg
Contact
仕事依頼などの相談・問い合わせはお気軽にどうぞ。当Blogへのご意見・ご感想もお待ちしています。下のフォームをクリックして画面を呼び出し、ご記入のうえ、送信してください。後ほど連絡させていただきます。

Form
Books












About Link
Blog『雲の上の書斎から』はリンクフリーです。必要に応じて以下のお好きなバナーをご使用ください。リンクされた場合は上記 Contact Formよりご一報いただけますと嬉しいです。