2012年12月23日

さよならは言わない

 
航空写真家の小栗義幸氏が亡くなった、という一報が私のもとに届いたのは、アラブ首長国連邦のドバイに到着した今年9月7日の朝でした。彼がずっと癌と闘っていたことは知っていたもの、突然の訃報に接したショックを、遠く離れた地でどうすることもできません。ドバイからリスボンへという1週間の取材スケジュールは動かせないため、無念ながら通夜も告別式も参列できず、彼とはとくに親しかった共通の友人に代理での出席を依頼しました。


小栗氏とは、かつて何度もペアを組み、2006年頃から世界各国をいっしょに取材して歩きました。ドイツ、韓国、デンマーク、シンガポール、オーストラリア、フィジー、タイ、台湾、米国など、いま思い浮かぶだけで10カ国以上におよびます。当時私は、旅を中心テーマとした海外取材の案件が舞い込むと、私と同様に異国の街で飲み歩くのが好きな彼をカメラマンに指名。そんな彼との思い出が、私の記憶の中にあふれるほど詰まっています。

思い出は、いまもまったく色褪せていません。別れの儀式に自分で立ち会えなかったためか、彼が天国に召されたという実感がまるで私の中にないのです。「おい、また海外取材に行くぞ!」と声をかければ、彼がすぐに「了解!」と言って飛んできてくれそうな気がして。

ご両親が落ち着かれた頃に、直接お別れを言うために実家を訪ねよう。そんな思いが昨日、ようやく叶いました。小栗氏とともに取材し、彼が提供してくれたたくさんの写真を添えて著した私の著書は数冊におよびます。上の写真は、オーストラリアのシドニーでの取材の合間に私が撮影しました。2007年10月に、エアバスA380のシンガポールからシドニーへの世界初就航便を彼と取材したときのもので、著書『エアバスA380まるごと解説』のコラム(P.40)でも使用しています。彼との合作であるそれら思い出の本を昨日、彼の実家に持参して仏前に捧げ、ご両親と少し話してきました。

しかし、仏前で結局「さよなら」は言えず、帰り際に私の口から出た言葉は「小栗、またな」でした。私がいまの仕事を継続するかぎり、彼は私の中で生きつづけ、これからもいっしょに世界を飛びまわっている──そんな気がしています。ずっと。

S.Akimoto at 23:17
Profile

秋本俊二(Shunji Akimoto)

作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら各媒体にレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『空を飛べるのはなぜか』『これだけは知りたい旅客機の疑問100』(サイエンスアイ新書)『羽田空港のひみつ』(PHP新書)『ANAとJAL──こんな違いがあったのか』『飛行機はなぜ、空中衝突しないのか?』(KAWADE 夢文庫)など著書多数。

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