2012年03月30日

どうした、ピーチ!!

 
搭乗便が空港に到着し、ボーディングブリッジが接続されると、機内に業務連絡のアナウンスが流れます──「客室乗務員はドアモードを変更してください」。すると乗務員は、自分が担当するキャビンのドアに向かって何やら操作を開始。あれはいったい、何をしているのでしょうか?


乗客を降ろすためにドアのロックを外している、と思っている人も多いようですが、そうではありません。旅客機のキャビンのドアには、緊急脱出用のスライドシュートが収納されています。緊急時に内側からドアを開けると、スライドシュートに自動的にガスが充填され、ドアから地上や海に向かって下りていくという仕組み。そんなものが空港で乗客が乗り降りする通常の状態で作動してしまったら大変なので、旅客機が空港に降りているときは客室乗務員によるドアモードの「ディスアームド・ポジション」への変更──つまり緊急脱出装置の作動を解除する作業が必要になるわけです。

28日(水)の午前8時半ごろでした。関西を拠点に3月1日から運航を開始したLCCのピーチが、長崎空港を出発前の機体の緊急脱出用スライドシュートを客室乗務員が誤って作動させるというトラブルが発生。乗務員は搭乗者を確認するため、一度閉めたドアを開ける際に、脱出装置の解除をうっかり忘れてしまったそうです。

出発準備などの作業を効率化して旅客機が空港にとどまっている時間を短縮し、1機の旅客機を1日に何往復もさせることで収益を上げる──それがLCCのやり方です。しかし1便1便の安全性維持にかける時間までは、絶対に縮小してはいけません。客室乗務員の仕事で一番大事なのは「保安要員」としての役割であり、既存のエアラインでは一人ひとりが「プロ」としての責任と自覚をもって仕事をまっとうしてきました。そのために日々厳しい訓練を重ね、実際のフライトでは常にさまざまなシーンを頭に思い浮かながら、いかなる状況下でも必要な行動を確実かつ迅速にとれるようシミュレーションしながら乗務に当たっています。

今回のピーチのトラブルは、そうした認識の「甘さ」が露呈した結果になったのでは? 単なる一乗務員のミスで片づけるべきではないでしょう。これは会社全体の問題です。だって、反対のケースを想定してみてください。出発時にドアモードの「アームド・ポジション」への変更をうっかり忘れてしまったら、緊急時にドアを開けてもスライドシュートが作動せず、乗客は機外への脱出ができなくなるのですから。どれだけ格安で運賃を提供できても、安全面で利用者に不安を与えるようなことがあってはLCCに未来はありません。ちょうど本日、誠Styleの連載『“飛行機と空と旅”の話』で、LCCの安全性について考察したコラムをアップしました。

≫≫≫「“激安運賃”で注目のLCC。安全性は本当に大丈夫なのか?

Profile

秋本俊二(Shunji Akimoto)

作家/航空ジャーナリスト。東京都出身。学生時代に航空工学を専攻後、数回の海外生活を経て取材・文筆活動をスタート。世界の空を旅しながら新聞・雑誌、Web媒体などにレポートやエッセイを発表するほか、テレビ・ラジオの解説者としても活動する。『これだけは知りたい旅客機の疑問100』『ボーイング787まるごと解説』(ソフトバンククリエイティブ/サイエンスアイ新書)や『航空大革命』(角川oneテーマ21新書)など著書多数。

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